10月3日、今年度初の事業として、特別講演会を開催!
当会としては、初めての一般向け事業として、武蔵野美術大学の前学長で、同大名誉教授である長澤忠徳先生(富山市出身)をお招きして、10月3日、高岡商工会議所において特別講演会を開催しました。
長澤先生は、武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科を卒業後、1981年に英国のRoyal College of Art, Londonに留学され、帰国後には、富山県のイメージディレクターを務められました。その後、東北芸術工科大学デザイン工学部助教授、母校の武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科教授を経て、2015年には学長に就任。現在は、武蔵野美術大学名誉教授/理事長としてご活躍です。
今回の講演テーマは、「AI時代における創造性と地域文化」。AIやCHATGPTなど激変するIT社会の中で、どのように創造性を活かし高めればよいのかということでお話を頂きました。
高岡市に疎開して暮らしたお母様と一緒にもうひとつの実家となった親戚に滞在した高岡での思い出話では、ドジョウを食べたお話も披露され、自身の生い立ちから、富山県との深い関わり、教育現場での経験、そして美術・デザインに関する哲学的考察まで幅広いテーマをお話頂きました。講演の概要は以下の通りです。
教育の道へ進むきっかけ
実は、高校時代、医大への進学を考えたこともあったが、それが難しいとわかり進路を変更。浪人中に自分の将来について悩んでいた時に、富山に向かう電車から見た日本海の水平線に魅せられ、偶然手に入れた武蔵野美術大学の資料から、そこで学ぶことを決意。この時の思いから、「水平線に立てるか」(CAN YOU STAND ON THAT HORIZON)という言葉を自身の哲学として、今でも卒業生たちに伝え続けていらっしゃるそうです。
「図の図」という研究視点
先生の研究テーマは「図の図」、つまり思考のツールとしての図の研究でした。地図、図像、図譜などの分類を行い、それらの組み合わせから「意図」という概念を導き出しました。「意」という漢字が「音」と「心」から成り立っていることに着目し、「意図」を「心の音の図り事」と定義しました。
この研究から、「タンジブル」(触れられるもの)と「インタンジブル」(触れられないもの)という概念を発展させ、1988年には「インタンジブル・イラ」という本も出版されました。
生成AIと文明・社会への影響
人工知能(AI)の普及に関しては、現在直面している課題として、著作権問題、データセンターの電力消費量、人材需要の変化などが挙げられました。
また、美術大学教育の本質について、「生きる力」、「創造的思考力」、「人間力」の3つの要素を重視していることを、お話しされました。
高岡の地域文化と工芸の価値についても言及され、ご自身が関わられた高岡クラフト市場街、クラフトコンペ、富山県総合デザインセンター/デザインウィーク等について説明があり、特に高岡出身で商工省工芸指導所の初代所長となった国井喜太郎氏の功績や工芸指導所の歴史的重要性についても熱く語っておられました。
最後のパートでは、グランドデザインの方向性から、人材観や価値観、あるいは、個性と表現など大きな視点での総括をお話し頂きました。
グランドデザインの方向性
伝統と革新のバランスを取り、21世紀のグランドデザインを創出していくことが必要。
カルチュラル・エンジニアリング(文化の方法論)により、デザインのカテゴリーを越えていくことが必要と指摘。文化は「意味や価値の共通了解が醸成された状況」であり、装置化と長期的継続が必要だということ。
人材観・価値観について
私たちはみんなそれぞれ違っていて、みんな特別な存在。多様性を尊重する教育哲学が創造性の基盤になるということ。
個性と表現
個性は「心の音」。表現は「心の音」の外在化(意図)であり、言葉を超えた感性の養成が鍵となります。行動の勇気としなやかさが必要。
「一歩踏み出す勇気」の重要性についても触れられ、堪忍柳(折れずにしなる)に学び、諦めずに、挫折や失敗を糧にする姿勢が大切であるということも。
最後に、お父上の言葉、「足下遠望」(足の下に遠くを見るのが洞察だ)を例示され、ビジョンを持ち、AI時代の地域創造に挑むべきである、というお話しをエピローグとして、講演は終了となりました。
会場には、地元企業の皆様をはじめ幅広い層のお客様にご来場頂き、満席となりました。
生成AI時代における創造性、造形言語リテラシー、地域文化・デザインの役割をめぐるお話から、教育・社会・産業まで、広範な示唆をご教示頂きました。
135枚ものスライドをご用意頂いた講演は、先生の熱い思いと相まって、予定時間を大幅に超えるものになりましたが、会場の皆様は、最後まで熱心に耳を傾け、講演終了後には、「大変面白く興味深い内容だった」という声が多数寄せられました。
